プロジェクトストーリー

ひとつの採用が呼び水となって次々と

農協観光は、全国各地に支店のあるJA(農業協同組合)が主なお客様であり、手がけるツアーの多くは、支店単位で企画されている。早坂社員が入社した頃から「1支店1企画」をスローガンにした取り組みがされてきたが、支店によって温度差があり、企画が実現するところとそうでないところの差がどうしても出てしまっていた。そんな状況の中、起爆剤となったのが、2012年に企画・催行した東京スカイツリー観光を目玉とした『JA支店ふれあい企画』である。
「岩手支店では私と、JAから出向のベテラン職員さんと一緒に企画旅行を仕掛けました。東京スカイツリーは開業前から大きな話題になっていましたし、事前から勝算はありましたね。もっとも、企画書を作って支店ごとに働きかけをはじめた当初は、それほど敏感な反応があったわけではなかった。支店の旅行担当者の中には『これで人が集まるかな?』と首をかしげる方もいらっしゃった。しかし、ひとつの支店で企画が通ると、それが呼び水となったように、次々に採用されました。結局、30近くの支店で『JA支店ふれあい企画』が実現したのです」

『JA支店ふれあい企画』に参加者が集まった要因として、東京スカイツリーのチケットが個人ではすでに取りにくくなっていた事情が大きい。農協観光本社ではかねてより相応の数の販売枠を押さえており、その枠を各支店へと割り振っていた。早坂社員にとっては、これが大きな後ろ盾になった。
「とは言え、『JA支店ふれあい企画』の反響があまりにも大きく、このままでは用意していた販売枠では間に合わないと分かりました。足りない分を確保しようと、岩手支店を挙げて予約の電話をかけ続けて、なんとか販売枠を確保しました。私たちの仕事では、ときにそんな地味な努力も必要なんです」
 どんな苦労があったとしても、催行されたツアーに添乗員として同行し、参加した人たちが楽しんでいる様子を目の当たりにするとその苦労はすべて吹き飛んでしまう。ツアー参加者を案内して東京スカイツリーの展望台へと登り、そこから望んだパノラマを早坂社員は一生忘れないだろう。
「何度も添乗しているうちに、お客様に見どころを説明するのが上手くなる。それも別の手応えがありますね。また一度、東京スカイツリーから夜景を見たことがあったのですが、とても幻想的な風景で今も目に焼きついています」

ツアーから戻ってきた後は、旅行参加者主催で「はばきぬき」という慰労会の習慣がある。JA支店の施設や、近くの居酒屋に集まったりの宴会だ。添乗員として同行した早坂社員にも誘いがかかる。
「旅行の想い出を語りあう楽しい集まりで、私も心の底からリラックスできるのですが、同時に、これはお客様の声を聞く絶好のチャンス。お客様のなかには周りから一目を置かれているキーパーソンがいらっしゃいます。その人の『次はこうした旅行がしたいな』という感想は、次のツアーを企画する上で大いに参考になりますね」
東京スカイツリーを目玉とした企画が大成功を収めたのが弾みとなり、翌2013年にも『JA支店ふれあい企画』のツアーを展開。2013年は伊勢神宮の「式年遷宮」にあたり、これに合わせた企画を立てた。前年に東京スカイツリーへ行った支店に対しては、この伊勢神宮ツアーを提案し、それ以外には東京スカイツリーのツアーを提案するという、二本立てである。これも上々の成果を得ることができた。2014年は、世界遺産への登録を記念した富士山へのツアーのほか、相撲見学、京都、立山黒部アルペンルートなど、多彩な企画を用意した。
「『JA支店ふれあい企画』の“ふれあい”にはさまざまな意味が込められています。私がしみじみ感じたのは、ご夫婦で参加した奥様がおっしゃった『普段は口数の少ない主人ですが、旅行が楽しかったおかげでしょう。いろいろと話をしてくれました」の一言ですね。旅行は“人”と“離れた場所”とをつなげるだけではなく、“身近にいる人同士”の結びつきも深くすることができます。これからも、そんな機会に立ち会っていきたいですね」